おくむら大腸肛門クリニック院長のブログ

岡山市の大腸肛門専門クリニックの院長のブログです。

いぼ痔は急性期と慢性期で治療方針が変わります

今回の内容 まとめ

1)いぼ痔には急に腫れる急性期のものと、年数をかけて徐々に腫れてお尻から出てくるようになる慢性期のものがある。

2)一般的には急性期のいぼ痔は薬などの治療で数日から数週間で元の状態に戻る。

3)慢性期のいぼ痔が数年かけてお尻から出てくるようになって、自然に戻らない状態になった場合は手術適応がある。

 

皆さんこんにちは~。久しぶりのブログの更新です。

今回はいぼ痔の手術適応についてお話をしようと思います。

いぼ痔というのは正式には痔核と呼びますが、これはもともとお尻にある肛門のクッション部分が、様々な生活習慣などで負担をかけることによって腫れたというものになります。

クッション部分というのは血管が豊富に含まれているため軟らかく、元々はこのクッション同士が密着してお尻のフタをすることにより、下痢やガスが漏れるのを防ぐ働きをしています。このためいぼ痔はまったく良性の物ですので、いぼ痔をほっとくと悪性のものになるということは一切ありませんのでご安心くださいね。

さて、このいぼ痔には、実はある日突然腫れて痛みが出るものと、時間をかけて徐々に徐々に大きくなっていくものの二種類あるのはご存知でしょうか?

皆さんの中には便秘でトイレでいきんだ後や、出産の時にいきんだ後、お酒をたくさん飲んだ後などに急にいぼ痔が腫れてしまって痛くなった経験がある方も多いのではないでしょうか?

この急に腫れてしまったいぼ痔というのは痔核の急性期ということになります。

そしてこの急性期のいぼ痔は、ほとんどが軟膏などの薬により痛みや腫れなどの症状が数日から数週間で改善します。代表的なものは血栓性外痔核や嵌頓痔核と呼ばれています。

突然腫れるいぼ痔というものは、おしりへの急激な負担によって肛門のクッション部分が炎症を起こして一時的に腫れるものですので、軟膏などの使用によって炎症が収まれば、腫れていたいぼ痔もほとんどが以前の状態に戻ります。このため急性期のいぼ痔の治療は肛門疾患診療ガイドラインでは、まず保存的治療が基本とされています。

 

これに対して、数年かけて徐々に徐々にいぼ痔が腫れて、排便時などに肛門から出るようになり、それが最初は自然に戻っていたのがさらに数年かけて、自然には戻らなくなり、毎回指で戻さないといけない状態になることがあります。こちらはいぼ痔の土台である支持組織が、長年の脱出により伸びてしまって弾力性を失った慢性期の痔核、の状態と言えます。この状態がいわゆる内痔核の分類であるゴリガー分類3度以上ということになります。ゴリガー分類というのは慢性期の内痔核の分類で、急性期の痔核には当てはまりません。

そして、伸びてしまった支持組織は薬では元に戻ることはありませんので、この状態になった方(ゴリガー分類3度以上)はいぼ痔が慢性的に脱出する状態をちゃんと直そうと思えば、何らかの手術が必要ということになります。

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ゴリガー分類 ~岩垂純一先生監修 マルホ株式会社「痔の知識」から

 

このように、一般的には手術が必要ないぼ痔というのは長い時間をかけて徐々に悪くなってしまった慢性的なものが対象になり、急に腫れてしまった痔核というものはまず薬の治療が基本とされています。そして急性期のいぼ痔が薬の治療をしても良くならなかったり、たびたび繰り返すようなら、その時に手術を検討すればいいのです。(もちろん患者さんがとにかく早く治してほしいとご希望される場合は手術をすることもありますが。)

 

もし普段から慢性的にいぼ痔が出たり入ったりしていなかったのに、ある日突然急に腫れてしまって出たままになって病院で診察を受けた時に、「これはゴリガー分類4度で、手術が必要な痔である」といきなり説明を受けた場合は、薬では本当に症状が治らないのかと先生に聞いてみるか、一度他の医院でセカンドオピニオンを受けることを強くお勧めします。ただの血栓性外痔核に対し一方的に手術を勧める医師がいるとしたら、その医師はちょっと要注意でしょうね。

いぼ痔は良性のものですから、薬でも治るいぼ痔に対し手術を受ける必要はありませんし、外科手術は最後の手段ですからね。

お尻が急に腫れて痛くなった方、お一人で悩まず当院へ受診してくださいね。

皆さんのお気持ちをお聞きしながら、治療方法をご相談させていただきます。

今回はいぼ痔には急性期と慢性期があるというお話でした。参考にしてくださいね。

それではまた~!

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岡山の新型コロナワクチン接種の現状について

 

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6月7日「news zero」より

5月17日より岡山県で高齢者優先枠のコロナワクチンの接種が始まりました。当院でも通常の診察の間に、毎日接種を行っています。

当初岡山県は接種率の全国ランキングが46位とかなり低い順位で、岡山県民としては残念な感じでしたが、その後 日ごとに順位が急上昇し、最高で全国2位まで上がってきていました。6/7には全国ニュースの「news zero」でも岡山県のランキング急上昇について取り上げられていました。接種を行っている施設としてはうれしい限りですし、すごく励みになりました。番組でも述べられていましたが、急上昇の理由は県内共通の独自システムの構築、ワクチン移送をプロの宅配業者に委託、空き状況のネットでの告知などがあげられていました。調整を担当されている県や市の担当の方からも、深夜にたびたび調整のメール等が送られてきており、担当の方は毎日遅くまで残業されているんだろうな、大変だろうなと思っていました。本当に頭の下がる思いです。

7月5日からは64歳以下の方への接種予約も始まって、さあこれからだと思っていた矢先、突然国からのワクチン配給が大幅に減らされることが判明し、急遽岡山市から7月、8月の新規接種予約を停止するよう通達がありました。様々な工夫をして接種枠を広げてきた役所の担当者の方や医療従事者にとっては、まさに突然「はしごを外された状態」です。私も今までの人生でこの言葉をまざまざと体感したのは初めてかもしれません・・

ファイザーワクチンの難しいところは、1本あたりに6人分のワクチンが入っているのですが、一度冷凍庫から出して希釈したら、6時間以内に使い切らないといけないとされています。このため、新規予約が停止された時点で、例えば午前中に二人だけしか予約が入ってない場合などは、なんとか日時をずらして6人が同時にまとめて打てる様に日程を調節しないと、残った4人分を廃棄しないといけなくなってしまいます。この調整がとても大変です。予約された皆さんもお仕事があったりご都合が合わない場合もあります。そして更にこのワクチンは基本的に2回目は1回目の接種の3週間後以降に打たなければいけません。このように接種のタイミングにかなり多くの縛りがあるため、一度変更となるとその調整に大変な労力が必要となります。

当院でもすでに予約をされている方に日程変更などをお願いして、なんとかワクチンの無駄がないよう調整中です。急な予約の変更をお願いした方々には、大変なご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、どうかこのような事情をご理解していただければ幸いです。御手数をおかけしますがよろしくお願いいたします。

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GWの過ごし方~ワクチン接種に向けて

新型コロナウイルスワクチン接種の準備中!

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皆さん、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか?私はほとんど自宅とクリニックで過ごしています。クリニックではもっぱら新型コロナウイルスワクチン接種に向けた準備をして過ごしています。

5/10よりいよいよ岡山でも高齢者向けのワクチン接種の予約が始まります。すでに予約が始まっている他県では、ワクチン接種の予約が繋がりにくく混乱していると全国ニュースでも報道されています。岡山県は独自の予約システムを作っており、ワクチンのコールセンターやインターネット上だけでなく、クリニックでも直接予約を取れるシステムを構築中です。今回のワクチンは全く初めてのものですし、副作用が出た時の対応なども不安でしたが、地域の皆さんが少しでも早く安心できる生活を送れるよう、当院も微力ながら貢献したいと思いワクチン接種施設に登録しました。現在岡山市だけで300以上の施設が接種会場として登録されているようで、地域の開業医さんたちの心意気が感じられて、大変心強く思いました。

さて予約開始に向けて、数週間前から予約システムやワクチンの配送システムなどの説明会が自治体主催でWEB上で行われていますが、これがなかなか大変です。

何しろこのようなシステムは前例のないものですし、準備期間がかなり短いため、なかなかすんなりシステム全体が理解できません。予約システム自体もようやく5月から私たちもアクセスできるようになったばかりです。予約開始日から電話が殺到すると予想されており、どうなることかと心配ですが、もう最初は使いながら慣れていくしかないですね。

日本は海外の国に比べるとワクチン接種が遅い遅いとさんざん言われていますが、ワクチンさえ確保されたら私たち日本の開業医の底力を発揮できるのではないかと期待しています。通常の診療の診察を行いながら新たにワクチン接種が加わりますので、特に開始当初は外来を受診される皆さんにもご迷惑をお掛けすることがあるかもしれません。どうか皆様にもご理解いただけたらと思います。早くこのトンネルの先に光が見えますように。皆さんも頑張りましょう!

それではまた!

いぼ痔はどのような人が手術になる?~「痔核は自覚で決まる」

いぼ痔の手術適応とは?

当院にはいぼ痔の方が多く受診されます。初診の方はまず患者さんにいろんなことを問診します。その時に、必ず皆さんにお聞きすることがあります。それは「いぼ痔がお尻から出てきたりしますか?出てきた場合、指で押して戻したりしますか?」という内容です。(当院のWEB問診にもあらかじめ入っています。)

これは患者さんのいぼ痔 (特に内痔核)の現在の程度(進行度)をお聞きしているのです。

 

いぼ痔には内痔核と外痔核の2種類があります。外痔核は表面が皮膚で覆われているものなので、もともとお尻の外にあります。なのでずっと出っ放しのものです。外痔核は急に腫れることもあります(血栓性外痔核といいます。)が、その場合も最近は薬で治療することが多いですね。時間がたてば薬で治っていくからです。

 

さてそれに対し、内痔核は手術になることもあります。それではどのような方が手術になるのでしょうか?

内痔核はお尻の奥にあるイボなので、皮膚ではなく腸の粘膜で覆われているものです。通常はお尻の奥に収まっています。ところが、内痔核が徐々に悪くなってくると排便時などにお尻の外にでるようになります。

この内痔核の進行度(進み具合)には分類があって、ゴリガー分類というものです。

全部で4段階あります。

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ゴリガー分類(マルホ製薬のホームページより)

1度:内痔核はお尻の中におさまっているままで出てくることはなく、主な症状は出血のみ。

2度:排便時にお尻からイボが出てくるが自然に戻る。

3度:排便時にイボがお尻から出てきて、自然には戻らないため、患者さんはおしりに物が挟まった感じの違和感が強く、痛みを伴うことも多いので、だいたい自分で押してイボを戻します。

4度:自分で押しても戻らず、出たままの状態。腸の壁が出ているので、粘液がついて下着が汚れたりします。

 

上記のように内痔核は、主に患者さんが自分で感じている症状(自覚症状)で分類されています。なので、問診でほぼ内痔核の進み具合が分かります。問診の後、実際の診察でその状態を確認するという手順になります。ちなみに、ある日突然内痔核が3度になるということはなく、内痔核が悪くなる場合は、数年かけて徐々に度、2度、3度と進んでいきます。「突然」イボが腫れて外に出たまま、なのは痔核の急性期である上記の表の「血栓性外痔核」か「嵌頓痔核」でしょう。

というわけで、普段から実際お尻からイボが出てきて、それを指で押したりする動作を日常生活でしていない人が「内痔核の3度」ということはまずありません。

そういう症状がないのに病院で、「内痔核3度で手術が必要」と言われた場合は、念のため一度他の専門医を受診した方がいいかもしれませんね。

そして、内痔核の治療は一般的にこのゴリガー分類の進み具合で治療方針がだいたい決まっています。上記の表に記載されているように、1~2度の方はまず保存的治療(投薬と生活改善)、3度~4度の方は脱出症状の改善には一般的には手術が必要になることが多いです。3度以上の方は内痔核の土台(支持組織)が伸びてしまっている状態で、それは薬で改善することが難しいからです。

このように痔核の治療は患者さんの自覚症状で治療方針が決まる事が多いです。

これが「痔核は自覚で治療が決まる」と言われている理由ですね。(以前学会の痔の教育講演で聞いた言葉です。)

1~2度の方で手術をするとしたら、出血が主な症状で、薬を使用しても出血が止まらない場合ですね。この場合、出血を止めるのが目的なので、当院ではジオン注射をすることが多いです。

簡単にまとめると、

痔核の手術適応とは

・普段からイボを指で戻す動作をしている人(ゴリガー分類3度以上の方)

・痔の薬を使っても出血が止まらない人

になります。もちろん患者さんが手術に同意されていることが前提です。そしてある日突然腫れて出たままになった痔核は一般的には急いで手術する必要はありません。「3度や4度の内痔核」ではありません。急性期の痔核であり、通常薬で腫れが引いていくからです。腫れが引いてからの状態を見て、手術するかどうか判断したらいいものです。これらは肛門疾患診療ガイドラインにも記載されている内容です。

ただし、痔の治療方針は病院によっては異なるところもあるかもしれません。それは医師による痔という病気のとらえ方の違いや、経営的な側面もあるのでしょう。ただ私としてはガイドラインに従った治療が間違いなく主流であると思っています。

痔は良性の病気ですから、当院では、自覚症状がないのに痔核の手術をお勧めすることはありません。

今回はいぼ痔の手術適応のお話しでした。それではまた!

 

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今年もよろしくお願いします。

コロナの中で新年を迎えて

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日本医師会から認定証を頂きました

皆さん、新年あけましておめでとうございます。2021年になって早くも2週間が経過しましたね。年越しをしたらなんとなくコロナもリセットされて、街中の感染も落ち着いてくれたらいいなと期待していましたが、当然ながらウイルスに年越しは関係なく、状況は更に悪くなっている感じですね。

私は一人開業医ですので、もし自分が感染したら外来も閉じないといけなくなってしまいます。通院中の患者さんや職員さんにも大変なご迷惑をかけてしまいますので、なるべくリスクを減らすため年末年始はほぼ引きこもってましたね・・

外に出るのは毎日のジョギングと、たまに車で軽く近場のドライブに行くぐらいでした。自宅ではギターの練習をしたり、最近急にはまった大泉洋さんの「水曜どうでしょう」の過去の放送をネットで片っ端から見たりしてましたね。

皆さんもコロナでいろいろストレスも溜まっておられることでしょう。先日私はちょっとポジティブに、もし将来コロナが終息したらどんなことをしたいかなと考えてみました。

私が今一番やりたいことは、友人と居酒屋でワイワイ騒いだり、斉藤和義さんのコンサートに行ったり、サッカーのスタジアムで大声で応援して周りの人とハイタッチとかすることですね。あとはやっぱり旅行かな~。

考えてみればわずか1年ほど前にはどれも当たり前にできていたことですし、3密など気にせず過ごせていた日常がどんなに自由だったかと思います。普段は意識しないような些細なことでも、無くなって初めて大切さが分かりますよね。今年はワクチン接種も始まる予定ですし、あの日常が少しでも早く戻ってきてくれたらいいなあと心底思います。

つらい事の後にはいい事があるはずです。いつかマスクを外して皆さんと笑いあえる日常が戻ると信じています。その時には、当たり前の日常がとてもいとおしく、幸せに感じられると思います。いつか来るその日を期待して、皆さんなんとかストレスをためず頑張っていきましょう!

当クリニックは考えられる限りの感染対策をして診察中です。換気を徹底しているためご来院の際にはぜひ温かい恰好をしていらしてくださいね。それでは今年もよろしくお願いします!

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肛門周囲膿瘍・痔瘻についてのお話し~症状とその診断まで

肛門周囲膿瘍と痔瘻は同じ病気ではありません

今回は痔の中のひとつ「肛門周囲膿瘍と痔瘻」についてお話しさせていただきます。

皆様の中に、「おしりの周りの皮膚の下に膿が溜まって、病院で切って膿を出してもらった」という経験をされた方はおられるでしょうか?これは「肛門周囲膿瘍」という病気です。

人間の肛門から2㎝程奥の肛門の皮膚と直腸粘膜の境界部分には、元々全周にわたって「肛門陰窩(いんか)」とよぶ細い溝が十数個あります。この「肛門陰窩」の一番奥には肛門腺という組織があります。(ワンちゃんを飼っている方は肛門腺を絞るというのを聞いたことがあるかもしれませんね。実は人間にもあるんです。)

通常は細い溝なので便などが入り込むことはありませんが、下痢などをすると水様便と一緒にこの溝に細菌が入ってしまうことがあります。これにより奥の肛門腺が化膿すると肛門の出口の周りの皮膚の下に膿が溜まってしまいます。これが「肛門周囲膿瘍」という病気です。

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1)肛門陰窩から細菌が入り込む(マルホ製薬ホームページから)

おしりの周りに膿が溜まっているわけですから、当然徐々に痛みが出てきて腫れてきて、膿が増えると高い熱が出ることもあります。

肛門周囲膿瘍の治療としては「たまった膿を出してしまう」というのが原則です。「切開排膿術」というやつですね。通常局所麻酔で行います。(その痛み止めが痛いという方も多いのですが)また、それほど膿が形成されていない場合は抗生剤だけで経過を見ることもあります。

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2)肛門周囲膿瘍の状態

さて、膿の表面の皮膚を切開することにより膿が出てしまえば痛みや発熱などの症状は改善します。それで症状がその後も出なければ、「今回は肛門周囲膿瘍という状態で治った」ということになり治療は終了です。もちろん手術は要りません。

ところが、切開排膿術の処置はおしりの表面の皮膚を切開して膿を出しただけで、細菌が入り込んだ肛門陰窩の入り口に対しては当然なんの処置もされていないことになります。その入り口が元々菌が入りやすい形状や角度だったりすると、再び下痢などの時に同じ所に細菌が入り、また同じ場所に膿が溜まります。そのような症状を繰り返していると、おしりの皮膚から膿が継続的に出てくるようになってしまうことがあります。

このような経過によって、お尻の中に元々ある溝(肛門陰窩)とお尻の周りの皮膚の膿の出口(二次口といいます)が繋がって「瘻管」という通り道(トンネル)が形成されてしまった場合、「痔瘻」に進展したと診断されます。

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3)痔瘻の状態(肛門の内部と皮膚の間にトンネルが形成)

このように痔瘻はいきなり初めからなるものではなく、肛門周囲膿瘍を繰り返し、膿を出す通り道(瘻管)が形成されて初めて成立し診断される病気です。肛門周囲膿瘍とは痔瘻の前段階の状態と言えるでしょう。

この「肛門周囲膿瘍」と「痔瘻」との違いは肛門科の専門医以外はあまり理解されていないかもしれませんね。

2020年度版の肛門疾患診療ガイドラインによると肛門周囲膿瘍から痔瘻に進むのは30~40%とされています。

逆に言えば初めて肛門周囲膿瘍を発症して切開した方はそれだけで治癒する可能性も60~70%あるため、私は肛門周囲膿瘍の切開後は痔瘻と完全に診断できるまでは、経過を診て不要な手術は避けるようにしています。

第73回日本大腸肛門病学会総会でも、あるクリニックの先生が「切開排膿を施行した肛門周囲膿瘍の予後検討」を報告されていましたが、検討結果から「肛門周囲膿瘍がすべて痔瘻になるわけではない。初回の切開排膿と同時に手術日を決めている医療機関もあるが、それらがすべて手術の必要があるわけでは無い。」とのコメントが学会でありました。

また、切開した直後の状態は、膿がたまっていた空洞が大きく、なにより「瘻管」がまだ固まっていないドロドロの状態です。その状態で手術をした場合は傷が不必要に大きくなり、瘻管の同定も十分できないことがあります。非常に専門的なお話ですが、痔瘻の手術はこの瘻管をしっかり見つけて、細菌が入ってきた入り口をしっかり確認して処理するのが重要なのです。そのため、「特に初回の肛門周囲膿瘍が短期間に痔瘻になり、またその膿が奥深くにあった場合は、すぐに痔瘻の手術をせず、ある程度傷が固まってから手術をしたほうが良い」と私は肛門科の先輩の先生方から教えていただいてきました。

このため最初の肛門周囲膿瘍を切開してから症状が落ち着いていれば、痔瘻の手術をするまで1年以上外来で経過を見ることもあります。痔瘻は基本的には良性の病気ですし緊急性はありませんからね。ただし痔瘻を10年以上放置するのは良くありません。長期間痔瘻を放置すると稀に痔瘻癌という悪性疾患を発症することもありますので要注意です。

さて、痔瘻になった場合、瘻管の内部は汚い不良肉芽という組織で覆われているため、薬で消えることは難しく、このため基本的に手術をしないと治らないとされています。痔瘻の手術法にはいろいろな種類があります。今回は話が長くなりましたので、手術については次回お話ししたいと思います。それではまた!

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半沢直樹を見て思うこと

皆さん、ドラマの半沢直樹を見てますか?先日は「東京セントラル証券編」の最終章でしたね。

以前にもブログに書きましたが、私は「下町ロケット」やこの「半沢直樹」などのお仕事ドラマが結構好きです。私は開業医ですが、開業医は同時に自営業でもあります。組織に守られた大きな総合病院の勤務医をやめて、一人で毎日いろいろな事と戦っている事業者としては、ドラマの中で熱く語られる仕事人のセリフにグッとくることがあります。自営業の方のみならず、毎日お仕事を頑張っている皆さんはそうですよね?

昨日は半沢直樹が語った「仕事上の3つの大切なこと」がとても心に染みました。

1. 正しい事を正しいと言える事
2. 組織の常識と世間の常識が一致している事
3. ひたむきに誠実に働いた者がきちんと評価される事

「仕事は客のためにする。世の中のためにやる。その大原則を忘れた時、人は自分のためだけに仕事をする。」

このセリフ、「客」を「患者さん」に変えても、そのまま医療にも当てはまります。開業医は経営のことも考えないといけませんが、医療はあくまでも「患者さんの悩みを治して幸せになっていただく」のが一番の目的で、金銭的なものはその後からついてくるべきものだと思います。経営の神様 松下幸之助さんも同じような事を言われていたそうですね。医者は金儲けを目的にしてはいけないってことは当たり前のことなのですが、開業して経営も考えないといけなくなると、どうしても目先のことに追われてしまう方もおられるかもしれません。

私のクリニックは総合病院などに比べると小さく、またあまり一般の医師がやりたがらない領域の仕事でもあります。

半沢直樹はこうも言っています。

「どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って日々奮闘し達成感を得ている人のことを本当の勝ち組というんじゃないか」

当院は大腸肛門科というかなり専門性の高いクリニックです。癌などを扱う大きな病院の医師からすると外来では軽んじられる領域かもしれません。しかし、悩んでいる患者さんは多く、大きな病院で診てもらっても改善せず、遠方からでも「治したい」と来院してくださる患者さんもいます。そんな方が、治療後「来てよかった」と喜んでいただけた時、私は医師として、社会人としてとても幸せを感じます。そんな患者さんの笑顔を励みに、これからも医師になった頃の初心を忘れず、「患者さんファースト!」で頑張りたいと思います!それではまた!

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